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電丼夏祭り「落としあな」

<DATE>2003.8/2・12:00開映  <PLACE>江戸東京博物館大ホール


自主映画製作グループ「電丼」のすべてがわかる一日、と銘打たれたこの"電丼夏祭り"は全三部構成。
第一部は、電丼創世記の古きよき8mmフィルム映画を上映、第二部は、電丼となじみの深い他団体作品の招待上映コーナー、そして第三部は、フィルムからビデオへと移り変わった電丼の今をお送りする全12作品、上映時間6時間強の長時間マラソン上映大イベントです。司会は電丼会長・古川達郎さんと、アシスタントの伊藤さんのコンビ。

I.D.K.作品「落としあな-On the Edge」は、第二部のオープニングに登場。本作で監督・脚本を担当した池田雄之と、代表の井手義和による舞台挨拶、過去作品の「Door」「渇いた記憶」の予告編に続いて上映されました。
また、第三部で上映された電丼製作・古川達郎監督作品「My Dear Friends」には、I.D.K.の風田次郎が出演しています。
-全上映作品解説&レポート-
12:00~<第一部・電丼ヒストリー>
温州蜜柑姫(1982年度作品/カラ-42分/8mm)
監督 JUN 流石/出演 横山文子 ほか
<INTRODUCTION>
電丼の原点となった作品のひとつ。
主人公は女子高生の佐和子。その日常を独特の世界で描いている。(ミニチュア特撮有り)
<アーロン・レポート>
一応アル中?の形を借りて、時代を先取りした“現代の無気力・無関心”や“依存症”から自分自身を取り戻す思春期の少女の姿を描いたこの作品。見所は、その実体の無い世界の不安定な描き方の工夫が実に実験的で、インディーズならではの面白さを秘めてる所だと思います。特に冒頭のミニチュアの街並を突き抜けるスピード感と実写のスピード感のバランスの良さとか、重くのしかかるように頭上を飛び過ぎる飛行艇の見せ方は観客の興味をラストの強姦者をパチンコ銃で討ち取る・・・まるでデジタルからアナログへ移行する時の、ある種の安心感のようなものさへも感じさせ、同時に少女と共に我々の心までも浄化することに成功している。

ガラスの少女(1983年度作品/カラ-10分/8mm)
監督 古川 達郎/出演 森 佳子
<INTRODUCTION>
現在のストーカーをいち早く取り上げ、プロモーション映画風に製作した作品。ラストの画面は衝撃的。
<アーロン・レポート>
これも少女を借りて、現代に潜む異常性を扱った作品。『温州蜜柑姫』に比べると、かなり私的作品に仕上がってる所が、テーマを観客に解りやすく仕上げてる。・・・全く個人的には成るが、知ってる曲が出ているだけに、あと一工夫欲しかった“欲張った”意見を書かせてもらうが、テーマが“ストーカー”だけに、「ずっと、そばに」と言う曲の2番の歌詞の冒頭を、ブラウン管の中の少女にストーカーの手が伸びるシーンに被せて欲しかった。その歌詞は「♪人は勝手ね、寂しいからよ・・・」である。他の曲にも何気にストーカー的メッセージは隠されて居るのだが、さりげなく強調して欲しかった。

Girl Meets A Boy(1991年度作品/カラ-10分/8mm)
監督 野村 朋子
<INTRODUCTION>
この作品は昔よみうりTVとBJ合同のシネフェスティバルで堂々準グランプリを受賞した作品。
オムニバスで女性監督シリーズを企画した時の1本で、白黒の映像とサイレントでコミカルに描く秀作。
<アーロン・レポート>
悲劇とは喜劇でもある、また逆もある。・・・本当に作品を書き上げる上で、何気に基本的な手法を、今回は徹底的に色んなシチュエーションを組み合わせる事により、徹底的にたたみ込み、この悲劇を徹底的に笑いに変えさせてくれている。・・・何気に、boy の顔がハッキリと判らないようにしている所が悲劇の女性の喜劇的要素に充分に浸透させる役割を果たしている。

あなたを守りたい(1991年度作品/カラ-30分/8mm)
監督・脚本・出演 畑 恭子
<INTRODUCTION>
電丼きっての女流監督のひとり。これも上記作品と同じくオムニバスの1本。
このあなたとは?ひとりの女性の慈しみの気持ちが細やかに描かれている。
<アーロン・レポート>
監督の話によると、その後、このテーマは一環として貫かれているとの事で、これは創り手において、とても重要な推進力、ポリシーに成っています。またインディーズと言う土壌だからこそ魅力的な題材に成っていると思います。ただ、少々セリフで説明し過ぎる所は、監督がおっしゃってた「絵コンテが描けなかった」とおっしゃってた部分の痛むべき反省点でしょう。言葉で説明するなら映像化する必要は無いのですから・・・。これが第一作と伺っています。テーマ性としての魅力から、その後の作品を拝見したいものです。

僕の彼女は・・・(1989年度作品/カラ-10分/8mm)
監督 古川 達郎/出演 岸野渉
<INTRODUCTION>
オムニバスの一編として製作された作品。TBS「三宅裕二のえびぞり巨匠天国」第31回に出演。
<アーロン・レポート>
『夕鶴』や『雪女』のような古典的な昔話を、車に置き換えた悲劇を、これもまた喜劇に見せる一筋縄では行かない作品です。かつて有った「エビ天」と言う番組で銅賞を取ったそうです。昔話には無い“落ち”が笑いを引立てます。でもこれは女性の生き方に“値下げなんかするな!”と批判する意図を感じるのですが・・・

おいしい野郎(1994年度作品/カラ-13分/8mm)
監督 宮崎 英輝/出演 電丼メンバー全員
<INTRODUCTION>
電丼のメンバーが総出演の痛快時代劇。
"忍者赤影"を彷彿とさせる奇抜なストーリーで描く、正義の忍者由比の助の活躍をつづった作品。
現在、I.D.K. NET-TVにて配信中。
<アーロン・レポート>
何回観ても「おいしい映画だぜ」「なぁーんてね」「私、ニッポンゴ、ちょっとだけ話せます」「・・・カァ~・・・」「おーしまい!」・・・機会あって、この作品はスクリーンで3度、ネット配信でも何度か観てる大好きな作品です。監督の感性の素晴らしさは、これからも原点を忘れず絶えず新しい物にチャレンジすることを恐れないで居て欲しい!・・・そう予感させる所に作品の魅力もあるのではないでしょうか。


14:40~<第二部・招待作品>

I.D.K.PICTURES
落としあな-On the Edge-(2002年度作品/カラ-34分/VTR) 作品紹介ページはこちら
監督・脚本 池田 雄之/出演 風田次郎、川崎ゆかり、林勝巳、水上明也 ほか
<INTRODUCTION>
5人の男と1人の女が、暴力団同士の抗争のどさくさに紛れ、金を奪う。
その金を1人の物にしようとする女、何者かに殺されていく男達。
生き残り、金を手に入れるのは誰か
<アーロン・レポート>
『落としあな』(I.D.K.)・・・自分の所属する所のレポートを書く事は、ある意味とてもしんどい所があります。どこまで客観視が出来るかが鍵でもあるわけですから・・・
今回の作品のテーマは“やくざの抗争”を扱っています。ここ数年の I.D.K.作品にしか関わった事が無い私なのですが、必ず画面上に描写されてた直接的な描写シーンを、徹底的に省く事により、見事ななぞ解き、サスペンスに仕上げていました。
映画特有の“空間を時間に置き換える”と言う最大の武器を武器にして、テーマに付き物の直接的な映像を極力見せないで観客に想像を委託した所に成功の一因が有ると思います。徹底的に無駄を省いた、これぞ“引き算の妙技!”が生み出した、クオリティーの高い作品です。

レイズフィルム
High-TENSION(2003年度作品/カラ-17分/VTR)
監督 タツオ/出演 望月勝広、ru;take、中村浩一郎ほか
<INTORDUCTION>
“走り出したら帰ってこないぜ!”愛と感動の一代抒情詩(嘘)!!
モテない男・ゆたかくんに仕掛けたちょっとしたイタズラが思わぬ展開に!車が暴走する自転車が暴走する
物語が暴走するどう収集つけんだコノヤロー!疾走するハイテンションムービー、「High-TENSION」!!!

<アーロン・レポート>
最後の方に、後方で自転車を盗む女が登場するのですが、全く顔は判別出来ません。でも何気に存在感があり、“ちょっとやってよ”程度の人には出来無い映画的感覚の良さが有ると思ったら、上映後に「・・・あれは電丼の星野佳世さんだったんですよ」と聞いて、思わず頷いてしまいました。ワンカットのワンシーンでも存在感の有る人は違うなぁ~と思いました。・・・相変わらず『レイズフィルム』作品は、テクニックの旨さとテンポの良さが作品に現れています。でも少々そのネタをテレビの使い古されたバラエティー番組の中にダブらせて、少々ガッカリされた人も多いのではないのでしょうか?それだけ、いつも『レイズフィルム』さんは期待されてるって事だと思います。

Filmix
日曜日(2000年度作品/カラ-21分/VTR)
脚本・監督 馬上修治 /出演 野田美弘、石川謙、井内伸輔、渡邊剛
<STORY>
うだつの上がらない殺し屋、茂。ある日曜日、この日は彼にとって大事な日。彼の仕事に我慢できず妻が連れて出ていった娘に久しぶりに会える日。手作り弁当とプレゼントも用意した。だが、いつ何処で何が起きるか分からないのが殺し屋の世界。男臭さ、哀愁を全面に匂わせるハードボイルドムービー。

<アーロン・レポート>
シチュエーション自体を、どうこう言う映画ではありませんが、物憂い雰囲気が映像とマッチしていた映画です。男のセリフ「日曜日に仕事なんかするなよ!」この何でも無いような、でもテーマを根底からしっかりと支え続ける言葉は、主演の野田さんの存在感に由来するものなのでしょうか?もし他の役者さんが演じたとしたら、重い世界を軽く仕上げる事が出来たのでしょうか?その軽い仕上がりが、やるせなさをぐんぐん引き上げています。ラストの無音の雨の中に転がる赤い傘のコントラストに目を向けられる事で、やるせなさは頂点を迎えます。

16:20~<第三部"電丼"は今>

猫の仔(2003年度作品/カラ-7分/VTR)
監督 笹原ゆき子/出演 大木千恵子、ステファニー
<INTRODUCTION>
笹原ゆき子、電丼所属後初の監督作品。新感覚ムービー。
<アーロン・レポート>
わずか7分間の映像です。映画と言う程のテーマが存在するのか?と言えば、それは人それぞれでしょう。時間が短いからとか言う問題ではありません。もしも「愛されているんだ」と自覚する事が作品のテーマなのであれば、もっとシンプルに仕上げた方が意識が分散されずに良いかもしれません。例えば字幕の問題・・・テーマに対して、この扱いで良いのでしょうか?もっと上手な使い方は、いくらでも出来ると思います。今後の課題として、面白さだけに終始しないで映画創りをして欲しいのは、着眼点は確かに新感覚(かもしれない)ムービーだからです。

誠太郎2~真夏の夜の夢(2000年度作品/カラ-38分/VTR)
監督 宮崎 英輝/出演 畑 孝也、星野 佳世 ほか
<INTRODUCTION>
人情派映画「誠太郎シリーズ」の第2弾。今回のマドンナは電丼きっての名女優星野佳世。なじみのメンバーも健在で、誠太郎ワールドを作っています。
<アーロン・レポート>
言わずと知れた『男は、つらいよ』へのオマージュを、このシリーズに感じない訳には行きません。下手をすれば、そのオマージュだけで終わってしまいそうなのを、ちゃんと観れる作品に仕上げているのは、宮崎監督の天性の世界観が有るからでしょう。先の『おいしい野郎』にしてもそうですが、既存のキャラクターを監督独特の世界観で新鮮な物に仕上げて行く感性は特筆に価するものです。宮崎監督と打ち上げの時に、二言三言お話させて頂きましたが、決して器用な方では無い所をお持ちだと感じました。近年、小手先の器用さで映画創りを片付けてしまいがちな中、映画に対しての愛情さへも感じる宮崎監督は、僕の大好きな監督の中の1人です。

My Dear Friends(2003年度作品/カラ-50分/VTR) 作品紹介ページはこちら
監督 古川達郎/出演 星野佳世、櫻田美宇、古屋ひかる、風田次郎、折笠コウ、鷹村守、太田文平
<INTRODUCTION>
2大女優激突!ユーカリSTORYでも活躍した星野佳世と櫻田美宇が競演した最新作。
恋愛と女の友情を描いたラブコメディー。IDKの風田次郎が客演で出演。
<アーロン・レポート>
楽しく仕上がったラブコメディーの最大の武器は、個性的な役者を適材適所に使えた事、大勢の人物に、おもいっきり信頼されている古川監督への惜しみない技術・感性の協力・・・それからこの『電丼祭』に意地でも間に合わせなくちゃいけないと言う、切迫したパワー、色んな物の積み重ねの上に成り立っているからでしょう!・・・時として、そう言うパワーのベクトルは、足し算では無く、掛け算として爆発しかけますから!!しかし、この『My Dear Friends』は、聞く話によると、実に演劇的な創り方をして成功してると聞いてます。つまり役者の感情移入を重視して、ストーリーの順番に撮影して行ったと言う事です。クランクアップが遅かった割に仕上がりの良いのは、それが退いては、編集の段階でも良い方向として働いているのではないのでしょうか。・・・只一つ残念なのは、これが男性の願望の中に描かれた女性像だと、ある女の人が言ってた事です。現実味に欠けると言う意見も出てた事を真摯に受け止める事も次への飛躍と繋がるでしょう。
---全体を通して---
蓄積は財産であり、こうやって過去を恐れず振り返る事は、新たなるステップアップに大変重要な足掛かりの作業で有る事を『電丼祭』は体験させてくれました。次は恐れず『I.D.K.祭』をしなくてはなりませんね!僕を含めて、何気に過去の作品を知らない人は多いものですから・・・そう言う意味で『電丼祭』は大きな足跡を残してくれた上映祭に成った事と思います。打ち上げには、どれくらいの人達が参加されてたんですか?横に約20人くらい並び、4列は出来てた打ち上げは、とても嬉しい事ですね。(アーロン)